リニア中央新幹線の建設工事をめぐる入札談合事件の捜査が大詰めを迎えている

 

「東京地検特捜部は来週にも、大手ゼネコン4社の社長らから任意で事情聴取する方針を固めた模様」とのニュースが流れていることから、何らかの進展が見られるのではないか。そのような気配である。

 

 「談合」という言葉は鎌倉時代に成立した「保元物語」にも、室町時代に成立した狂言にも登場する古い言葉である。

いまでは「入札談合」「官製談合」といえばその問題がしばしばテレビや新聞に取り上げられ批判もされているが、もともと「談合」という言葉そのものには悪い意味はなく、「寄り集まって相談する」という意思決定のプロセスを表す。

 

 「入札談合」や「官製談合」については「独占禁止法」やその他の法律により違法行為であることが定められており、その問題がしばしばマスコミに取り上げられていることを見ても、「談合は悪である」ということについては誰もが疑う余地のない常識であるように思える。

しかし一方では、「談合」というシステムの下でこそダンピングによる粗悪な工事を排除することができ、その品質を維持できるとして「談合は必要悪である」という意見が見られたり、「談合は事業を維持していくためにはなくてはならない仕組みである」と思っていたりする者がまだいる。

「談合は悪である」ということについて必ずしも常識であるとまで言い切れていないところが、「入札談合」や「官製談合」の排除を難しくしている。

 

 この「入札談合」や「官製談合」を禁止しているのが「独占禁止法」 。

「独占禁止法」は、戦後の占領下において「経済民主化政策」の一貫として作られた法律で、米国の「反トラスト法」をモデルにしたものであるとされている。

この「反トラスト法」というのは、単一の法律を指すものではなく、いくつかの法律を総称したもので、主なものとしては、不当な取引制限および不当な独占を禁ずることを定めた「シャーマン法」、価格差別、抱き合わせ取引・排他取引などを禁止し企業結合を制限する「クレイトン法」、反トラスト法の執行機関である連邦取引委員会の設立について定めた「連邦取引委員会法」がある。

日本の「独占禁止法」は、この「反トラスト法」の考え方を導入したもの。

 

 

 「独占禁止法」は、

  • 私的独占の禁止
  • 不当な取引制限(カルテル・入札談合など)の禁止
  • 事業者団体の規制
  • 企業結合の規制
  • 独占的状態の規制
  • 不公正な取引方法の禁止
  • 下請法に基づく規制

を規定したもので、他の法律に比べ

  • 合法、違法の境を見極めるのが難しい
  • ペナルティが非常に重い
  • 行為、特に入札談合などではその行為が密行している
  • リニエンシー(課徴金減免制度)という非常に特殊な制度がある
  • ルールが曖昧である

といった特徴を持つ。

 

 

 とりわけ法に反したときの懲罰が重いということでは、「独占禁止法」は数億円以上もの課徴金を課せることがあり、また他の国においては百億円以上もの課徴金を課せる制度もある。

このような多額の罰則金は他の法律では少なく、「独占禁止法」は他に比べて非常に重いペナルティを持つ。

 

一方、これだけ企業に対して厳格なペナルティを課される行為が全く隠密に行われるところが、「談合」という行為の特徴であるとも言える。

企業の外部に対して隠蔽するだけでなく、場合によっては、いくら企業がコンプライアンス活動を展開したとしても、その企業のトップが掴めないところで違法行為が育まれる。

このような重大な法的リスクが、意思決定に独特なマネジメント手法をもつわが国の企業において発生するのは、致し方のないところであろうか。

 

これが今回のリニア中央新幹線の建設工事についても当てはまるのかは定かではないが、今後の捜査を見守りたいものである。