紫式部が描く宇治十帖の世界に魅了される旅

 

 

源氏物語の世界に魅了されて

紫式部の筆致によって紡ぎ出された源氏物語。

その壮大な物語世界に魅了されてから、どれほどの年月が流れたのだろうか。

 

和歌への興味をきっかけに、藤原俊成の言葉「源氏見ざる歌詠みは遺恨のことなり」に触発され、少しずつ源氏物語を読み解き始めた。

これが、宇治十帖の世界への扉を開くこととなった。

 

宇治十帖の魅力

五十四帖からなる源氏物語の中でも、最後の十帖は「宇治十帖」と称され、宇治の地を中心とした物語が展開する。

 

京都の南方に位置する宇治は、宇治川の両岸に広がる自然豊かな土地。

古くから京都と奈良、東国を結ぶ交通の要衝として栄え、近年では茶の産地としても名高い。

 

私は年に数回、この宇治を訪れ、宇治川の畔を散歩しながら源氏物語の世界に浸っている。

 

宇治橋と橋姫伝説

京阪電車の宇治駅を出ると、目の前に広がる宇治川の畔。

川風を感じながらしばらく歩くと、古くから交通の要衝として知られる宇治橋が見えてくる。

 

瀬田の唐橋、山崎橋と共に日本三古橋の一つに数えられる宇治橋には、橋姫伝説が語り継がれている。

 

京の都から離れた宇治の地で暮らす女を想って詠まれた

「さむしろに衣かたしき今宵もや われを待つらむ宇治の橋姫」(古今和歌集)

の歌は、愛しい女性の代名詞として橋姫の名を世に知らしめた。

 

古来より、川の両岸を渡す橋には心霊が宿り、女性神が守るとされてきた。

それが橋姫であり、宇治橋の袂に鎮座する宇治橋姫神社もまた、橋の守護神として信仰を集めている。

 

宇治十帖の始まり

そして、宇治十帖は第四十五帖「橋姫」から始まる。

 

入りもてゆくままに霧ふたがりて 道も見えぬ繁き野中をわけ給ふにいと荒ましき風のきほひに ほろほろと落ち乱るる木の葉の露の散りかかるもいとひややかに 人やりならずいたく濡れ給ひぬ(第四十五帖「橋姫」)

 

晩秋の頃、薫の君が宇治を訪れ、都を離れてわび住まいを送る八の宮と出会い、その後、八の宮の娘である大君と中の君と出会う。

この二人の女性との関わりを通して、物語は新たな展開を迎えていく。

 

宇治十帖の世界を体感

宇治を訪ねれば、源氏物語の世界に実際に触れることができる。

宇治橋、宇治上神社、平等院鳳凰堂など、物語ゆかりのスポットを巡りながら、紫式部の描いた繊細な人物描写や美しい自然描写を味わってみてはいかがだろうか。